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一般財団法人さっぽろ産業振興財団
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Business

公開:

2025年10月10日

【企業 meets デザイン STORY】Chapter 02 石田製本株式会社 × 小島歌織さん

石田製本株式会社の田中嘉彦さんとグラフィックデザイナーの小島歌織さん

 

事業の新たな柱を立ち上げたい石田製本株式会社(札幌西区本社)とZINEイベントを主宰するグラフィックデザイナーの小島歌織さん。

当財団のマッチングプロジェクトを介して手を結んだ両者が新サービス「CRAFT ZINE」を立ち上げたのは、2023年春のことだった。

サイト立ち上げ3年目に振り返るマッチングのビフォー・アフター。

製本の機械音が響く社内にどんな化学変化が生まれたのだろうか。

最小3部から印刷、ハードカバーZINEを 200タイトル受注

近年人気が高まっているZINE(ジン)とは、個人が出版する冊子類のこと。一般流通している本や雑誌の判型にこだわらず、サイズも形も紙も、印刷部数も自由。もちろん肝心のテーマも著者次第という個人色の強い表現媒体である。

札幌では2011年からデザイナーの菊地和広さん、小島歌織さんたち有志が企画したZINEの展示販売イベント「NEVER MIND THE BOOKS」が始まり、2025年10月25日(土)・26日(日)の開催で14回を数えるほどに定着している。

 

今回の企業×デザイナー事例は、ZINEがテーマ。2022年度に公募した当財団主催の「ブランドパートナーマッチングプロジェクト」に札幌の老舗製本会社、石田製本株式会社が応募し、ZINEに詳しい小島さんをパートナーに選出。2023年4月にハードカバーのZINE製本サービス「CRAFT ZINE」の受注サイトを立ち上げた。

 

数多あるネット印刷の中でもハードカバーZINEを少部数から作れるサイトは少数派。

 

2025年10月時点でこれまでに受注したCRAFT ZINEは200タイトル近く。デザイナー、イラストレーター、詩人などのクリエイターを中心に多様な顧客を獲得し、最小印刷部数3部、最大600部といったバリエーション豊かなオーダーに応じている。

石田製本の田中嘉彦さんによると「初年度の売上は約300万円で翌年は倍以上。3年目の今年も受注ペースが上がっています」。競争が激しいネット印刷界隈で着実に存在感を高めている。

クリエイターに訴求するサイト作り、プレイベントも好評

1936年に創業した石田製本は、官庁の帳簿作りが出発点。「上製本」といわれるハードカバーの製本技術を磨き続け、丁寧な仕事ぶりで全国の出版社から厚い信頼を集めてきた。だがデジタル時代の到来により1990年以降、製本業の売上は下降線に。

そこで同社は2010年に自社で直接WEB受注するオンデマンド印刷サービス「卒園アルバム」や「いしだえほん」を開始。自社初のステーショナリーブランド「booco」も立ち上げ、個人クライアントの拡大に努めてきた。

 

マッチングプロジェクトに持ち込んだ課題も、個人クリエイター向けのハードカバーZINEサービスのブランディングだった。一方、本プロジェクトの公募情報を聞きつけた小島さんは「ZINE」という一言に反応し、アイデアコンペに手を挙げることに。プレゼン当日は「ZINEとは?」という導入から丁寧にひもとき、その熱いZINE愛が石田製本側に刺さってマッチングが成立した。

 

マッチングプロジェクトでは企業が課題を言語化するプロセスから有識者がサポートした。

 

「CRAFT ZINE」のサービスはクリエイターへの訴求を強めるため、「本来であれば受注の幅を広げることになるソフトカバーも作る、という選択肢をあえて手放しました」と小島さんは明かす。

「同業他社との価格競争に陥ってしまうと石田製本さんがせっかく持っているハードカバーの製本技術が光らない。むしろハードカバーのZINEに特化し、“こんなこともできる”というオプションを増やすことでクリエイターが頼みたくなる構成に振り切りました」

 

さらにイベント企画に慣れている小島さんからの提案で、2023年2月に札幌駅前通地下広場チ・カ・ホでプレイベントを実施。道内外のクリエイターに制作依頼した13タイトルのサンプルをお披露目した。

 

チ・カ・ホでのプレイベント。箔押しや見返し印刷などのオプションを多様に使ったサンプルを並べ、ハードカバー製本の上質な美しさをアピールした。©Asako Yoshikawa
プレイベントを見て作品集制作を依頼してきたデザイナーもいる。「オンデマンドでありながら微妙な色合いのトーンが再現されていて満足しています」(著者アンケートより)©Asako Yoshikawa

 

デザイナー不在の弱みを克服、工場にも新たな刺激

サイトオープン後も小島さんは石田製本に通い続けた。「最初の1年間は月1で販促などのコンサルタントをさせてもらいました」。SNS担当者と共に集客データを分析し、インスタにアップする画像の撮り方も最適な場所や時間帯をアドバイスするなどの細やかなフォローアップが続いていたのである。

 

「ロゴやサイトを作って終わりではなくてCRAFT ZINEをどう広めていったらいいかも小島さんが一緒に考えてくれた。すごく心強かったです」と田中さん。石田製本の長年の課題である「社内にデザイナーがいないため発信力が弱い」が、SNS担当者と小島さんが考えを共有することで克服され、姉妹ブランドの発信にもプラスにはたらいているという。

 

建築士やブライダルプランナーが顧客への贈り物に3部ずつ注文するなど目的は人それぞれ。家の外観を表紙に型抜きするなど細部の遊びも楽しめる。

 

本の仕様に凝ったオーダーが多いCRAFT ZINEは、工場にもスタンダードな製本案件とは異なる刺激をもたらした。少部数印刷だからこそミスやロスは極力抑えながら、著者の想いに応えるものを作りたいという空気が工場内にも醸成されている。

「工場が頑張ってくれているからこそのハイクオリティーが、CRAFT ZINE最大の強みです。お客様と直接やりとりをしている営業も工場との情報共有をより意識するようになりました」

 

「CRAFT ZINEのパートナーが小島さんじゃなかったら今の形にはなっていなかった」と語る田中さん。

 

プラスアルファのメニューも展開、ZINEの自由度を再認識

オプション利用が多いCRAFT ZINEは注文者とのやりとりも多く、「そこで信頼関係を育んでいけるところも魅力の一つです」と田中さんは語る。

「お話を聞いているうちに、それは『いしだえほん』でお受けした方がいいとか、作者さんが“やっぱりオフセット印刷にしたい”と改めて石田製本の仕事として受注するなどのありがたい発展形のケースもありました」

現在石田製本は増刷キャンペーンや学生応援キャンペーン、ポスターやカレンダーも作る「CRAFT ZINE PLUS」なども展開中。注文のハードルを下げる試みに取り組んでいる。

 

情熱共有並走型のクリエイティブでCRAFT ZINEの成長を見守り続ける小島さん。「こんなにも石田製本さんを頼りにしてくるお客様の話を聞いて、改めて“ZINEは自由だ”という思いを強くしました」

2025年10月25日(土)・26日(日)開催の「NEVER MIND THE BOOKS」にはCRAFT ZINEもブースを出店し、新たな出会いを広げていくという。

 

当財団クリエイティブ産業振興課は、今回の事例の他にも企業とデザイナーの協業を生み出す様々な企画を進めている。

 

さっぽろデザインブリッジ

 好評につき、参加企業は1社(1名)→1社(複数名)になりました。そのため、募集期間を10月21日(火)まで延長します!

【参加者募集中・10/14締切】デザイン×ビジネスを学び、札幌の未来を共創する「さっぽろデザインブリッジ」参加企業・デザイナー募集

デザイン活用促進補助金

【募集は終了しました】令和7年度 デザイン活用促進補助金 申請者募集のお知らせ

展示・セミナーイベントなど(2026年3月6日予定)

 

「今年は応募が間に合わなかった」という企業の方も新年度を視野に入れて定期的にサイトをチェックしてもらいたい。

 

小島さんは当財団クリエイティブ産業振興課の若手デザイナー育成プログラム「SESSA 2025」のアドバイザー。「NEVER MIND THE BOOKS」のSESSAブースも見守っている。

 

 

 

石田製本株式会社  https://i-bb.co.jp/
CRAFT ZINE        https://zine.i-bb.co.jp/
NEVER MIND THE BOOKS http://nevermindthebooks.com/

 

取材 佐藤優子 https://www.facebook.com/yukosato.mimibana                           撮影 マカロニ 大橋泰之・溝口明日花 https://macaroni-photo.com/